ダイジェストDigest
フォーラムB 「学習指導要領改訂と教育DXを考える~子どもの成長・発達につながるものに~」
2030年度本格実施をめざして、学習指導要領改訂の審議がすすめられています。その中では、デジタル教科書導入をはじめとしたGIGAスクール構想の徹底が強調されています。2020年以降、コロナ禍と現行指導要領、「1人1台端末」が同時に「やってきた」学校の中で何がおこったのかをふり返り、私たちが願う子どもの学びとはどのようなものかを明らかにするために、このフォーラムを企画しました。会場に182人、オンラインで27人合わせて209人が参加しました。
中嶋哲彦さん(名古屋大学名誉教授)が、次のように基調報告を行いました。
「子どもも教師も〝ワクワク〟するような学び、喜びを感じることのできるような学びでないと、豊かにならない。今の教育は、指導要領から脅された教師が、子どもに『学び』を押しつけているのではないか。政府が関与して決めた、教える側からのカリキュラムではなく、子どもから出発し、子どもにとってどんな意味があるかを考えるアプローチが必要だ。/教育には『個別性』と『普遍性』のバランスが必要。これまで政府は『普遍性』を強調してきたが、最近は1人1人のニーズに応じた『個別性』=『個別化』を打ち出している。このことは子どもの分断につながりかねない。『1人1台端末』は『個別化』のいい道具。気をつけなければならない。/学習は『将来における幸福追求』に備えるものと考えられがちだが、将来に備えるために現在を犠牲にするようなことがあってはならない。『現在の幸福追求』と『将来の幸福追求』の重なり合うところに〝ワクワク〟がある。/ユネスコの学習権宣言は、学びによって自分自身を広げ、他者を自分の中に取り込んでいく権利を打ち立てている。そうした学びが求められている」。
シンポジストの最初は東京の公立小学校教員。通常学級の担任としての実践と、支援員としての不登校の子どもたちとのかかわりを踏まえ、デジタル化の進行にかかわって、次のように報告しました。
「デジタル化によって個別最適な学習ができるというが、一斉授業の中でも、班学習や子どもの特性をとらえた発問など十分やれる。端末を使った授業を参観したが、先生は何もしない『タブレット自習』や、実験すべきところを動画の視聴で済ませるなど、これが『主体的・対話的で深い学び』なのかと思った。特に低学年の子どもに端末は必要ないと思う。教室に国語辞典を何種類か用意しておいて、どれにも載っていなかったら端末で調べるようにしていた。端末に打ち込んだものを、同じ瞬間に見られるという『同時性』は評価したい。でも、学力は下がっていると思う。端末の持ち帰りによるデジタル使用時間の増加により、家庭学習の時間が減っている。綺麗なプレゼンはできるが、具体的に質問してみると全然答えられない。パターン化した文章が増えているように思う。依存症になってしまっている子もいる。デジタルドリルばかりやらされていた子に、花丸をつけてあげたらすごく嬉しがったという話を聞いた。今すぐできることとして、『デジタルデトックス』を提案したい。週2~3日、学校でも家庭でも端末を使用しない日をつくるとりくみを始められないだろうか」。
次に、教科書編集者の方がデジタル教科書について報告しました。
「2019年度から学習者用デジタル教科書の使用が始まったが、紙の教科書の内容をデジタル化したもので、デジタルの良さを生かしきれていない。無償給与の対象でもなかったので、ほとんど使用されていなかったが、2024年度から英語(100%)と算数・数学(55%)が無償給与となった。2030年度からは、全科で本格的なデジタル教科書が導入される。デジタル教科書も検定の対象となり、①紙の教科書のみ、②紙とデジタルの併用、③デジタルのみ、という選択肢から採択権者が選ぶ。デジタル教科書には、生成AIによる要約機能や物語の読み上げ機能がついたり、関連事項のリンクやYouTubeが貼りついたりする。おそらく②のハイブリッドが多くなると思うが、課題がたくさんある。1つはデジタル環境の整備。2つは、紙には無い良さや学習効果が得られるようでないと普及していかない。現場の先生たちの声を聞きながら、よりよい教科書づくりをすすめていきたい」。
最後に、奈良教育大学附属小学校教員のお二人が、同校でのとりくみと、この間の「出向」で感じたことなどを報告しました。
「コロナ禍の際、『感染リスクの軽減』などを理由に休み時間や行事を削ったが、本校では、できるだけいつも通りの学校生活を保障した。特に大事にしたのは自由な『休み時間』。子どもたちが周囲とかかわり、いろいろな経験をして成長していく、その土台を大切にしたいと話し合った。/2021年に『みんなのねがいでつくる学校』という本を出した。『みんな』とは、子ども・保護者・地域・教員などあらゆる人。『願い』とは、単なる要求ではなく、その奥にある本当の『ねがい』。それは何か、対等な立場で話し合いながら、子どものための教育課程づくり・学校づくりをすすめてきた」。「先輩たちからずっと言われてきたことは〝教材の価値〟と〝授業における民主主義〟。(子どもたちと一緒に絵本を読み合った実践を紹介)こうした授業は『一律・一斉・一方向型の授業』だと批判されることがある。子どもたちは、それぞれが物語を読んで、ことばにする。友だちのことばに出会って、また考える。そんな営みを続けるなかで、教室の仲間と一緒にいるからこそ、自分とテキストとのやりとりだけでは出会うことのできない学びを得ている。/公立学校に出向させられ、校長のガバナンスと指導要領のバイブル具合、教科書絶対主義に驚いた。目の前の子どもたちを一番よく知っている私たち教員の専門性ではなく、指導要領や教科書、指導書、校長などの基準にあわせることが教員の仕事にさせられていると感じた。教員の専門性が信じられる現場を取り戻したい。1人ひとりが『願い』を持てる、その願いは『実現できる』という信頼、そんな『学校づくり』を取り戻したい」。